作家インタビュー

木村展之Kimura Nobuyuki

「釉薬の色って、料理のレシピと同じで無限大なんです」

父親の作る美しい「青」に惹かれ、釉薬の世界へ。

作者の木村展之さんは、京都の陶芸のメッカ・五条で祖父の代からの陶芸一家に生まれた。幼い頃から、周りにあったのは父の作る器。焼き物は日常的に食卓にも登場していた身近な存在だった。その中で、彼の心を特に捉えていたのが、「青」の器だったそう。

「父が使う釉薬の色の中で、一番綺麗な色だったんです」

本格的に釉薬の技術を学ぶようになった20歳頃、工業試験場での研究テーマにも、自然に一番身近な美しい色である「青」を選んだ。
以来、ずっと理想の「青」、理想の色を探し求めている。材料の組み合わせや質次第で生まれる様々な色は、まさに無限大。「元々の血筋だったのか、凝り性の性格のせいなのか…」気がつけば、すっかりその釉薬の世界にはまり込んでいた。

「“京都人のつくる”青磁、京都らしさのある作品を目指していきたい」

たくさんのテストピースをつくり、「旨み」のある色味に熱意を注いだ作品。

「やはり(自分は)京都出身なものですから…「京都らしさ」のある作品を目指していきたいと思っています」という木村さん。他の焼き物の産地にはダイナミックな表現やずっしりとくる重みなど、それぞれ個性がある。その中で自分が一番自分らしさを出せるのが、京都出身というところだと感じているのだそうだ。

「京都の雅さとか、気品とか、品格とか…そういうのを意識して、「京都人のつくる」青磁、京都の焼き物らしい綺麗なかたちをテーマに作品を作っていきたいです」

その中でとりわけ木村さんが大切にしているのが、「深い色」の表現。勿論、ただ単に色を出すだけなら、簡単な手段は幾らでもある。しかし、木村さんの目指す「深い色」は、それでは出せない。「安くて簡単に色を出せるものはありますが、それではそれだけの色しか出ない。色々な色が混ざってこないと、深みのある良い色は生まれないんです」

その点、天然の原料―藁灰や木の灰などには、様々な自然の不純物が含まれている。それが複雑に作用し、青でも単純な青ではない、中に緑や黄色、茶色など幾つもの色が混ざり合った「青」が現れてくるのだ。「味で言うところの、渋みとか苦味とかが残りつつも、甘い…といった感じでしょうか。京料理の懐石にしても、出汁に様々な産地の昆布とかを合わせて使うから深い味わいが生まれる。それと同じ奥深さがあるんです」

ただ「苦い」ではなくただ「甘い」でもなく、単純に一言では言い表せない「旨さ」。それが、木村さんの求める「深い色」なのだろう。天然のものは不安定で、採れた時期や場所など色々なものに左右されて触れ幅が生まれてしまう。いつでも同じ色が同じように出せるとは限らないため、どうしても手間がかかる。
それでも、木村さんはいう。「でも、手間をかけるほど、それに見合った良い色が出るんですよ」工房に山のように積み上げられたテストピースは、その惜しまれなかった手間を物語る。しかしそれは、木村さんの理想の「深い色」への旅の、確かな軌跡だ。

「自分にしか出せない名刺代わりの色を見つけたい」

自分のことを「積み重ね型」だ、という木村さん。「物凄く才能があって始めた、というわけじゃないですからね。いつも自分の可能性をギリギリで探している感じです。もっと何か出来るんじゃないか、何か出るんじゃないか、って搾り出している感じ」だからこそ、これからもっと、センスがよくなっていきたいと願う。 「20年近くこの仕事を続けてきましたが、やっぱり、いいものを作るにはものの良さが分からないと作れないと思うんですよ」

幸い、周囲には昔から父を含め目の肥えた人が多くいて、色々と教えを請い、学ぶことができた。「実際、若い頃に比べると好みも変わってきました。
昔は指の形が残るくらいゴツゴツしたものとか、煌びやかなものが好きだったんですけれど、今では一見地味だけど静かで深い…そんな作品も美しく感じるようになりました。目が肥えてきたんでしょうかね」と木村さんは笑う。それでもまだまだですよ、とあくまで謙虚だ。普段から人の作品の購入もよくしているのだそうで、自分が普段やらない表現をしたものや若い人の斬新な作品は、とても刺激になるという。

「建築でも、ファッションでも何でも、色々な興味を惹かれるような美しいものを沢山見て、もっと目が肥えていったらいいなぁ、と思っています」様々な美しいものから得たもの、それがまた彼の中に積み重なって、また新しい作品を作る大きな力になっていく。穏やかな口調の中に、強い熱意がひしひしと感じられた。
そんな彼に、これからやってみたいことは何かを尋ねてみると、「天目をやってみたい」という。嘗ては幻、とも言われたことのある、不思議な虹色の輝きを出す釉薬だ。色の表現にこだわる木村さんにとっても、ゆくゆくはやってみたいものなのだという。「天目には世界に4つしかない茶碗もありますけれど、別にそこを目指すというつもりではないんです。
でも、「その人でしか出せない色」が出せるようになったらいいな、と思っています。見ただけで「ああ、あの人だな」って分かってもらえるようなものを作れたら、理想ですよね」その先にずっと残る、名刺代わりの色。自分だけに出せる色。まだ見ぬそんな色を探す旅は、今日もまだ続いている。

木村展之

1965年
京都五条坂に生まれる
1987年
京都市工業試験場窯業専攻科修了
1990年
日本伝統工芸近畿展初出品入選
日本伝統工芸展初出品入選
1991年
日本伝統工芸展入選
1992年
日本伝統工芸近畿展入選 以後毎年入選
滋賀県湖西に築窯独立
1995年
日本陶芸展入選
日清現代陶芸「めん鉢」大賞展審査員奨励賞受賞
1996年
清水卯一先生主幹「蓬莱会展」出品
1997年
長三賞陶芸展入選
日本伝統工芸展入選
1999年
日本工芸会正会員に認定される
信楽陶芸展入選
2000年
現代茶陶展入選
2006年
NHK BS2「器夢工房」出演

代表作

  • 桃花瓷 花瓶

  • 月白鈞窯 片口

  • 粉青瓷 茶碗

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